コラム

COLUMN

前田悠也

第44回:今シーズンを振り返って(後編)

私が担当した選手は開幕から順調な滑り出しを見せたものの、4月にはアクシデントに見舞われました。内野ゴロを放って全力疾走した際、それた送球を捕ろうとする一塁手と交錯して親指を負傷しました。状態を確認すると彼は気丈に振る舞い、その場ではプレー続行を決めたものの、一晩経っても痛みは消えず、リハビリのためにファームに降格することになりました。私が担当していた選手のうち、故障した彼は英語、もう一人はスペイン語を母国語としていたため、私が英語話者の彼に付いて共にファームへ付き添い、私が不在の間はもう一人の選手をスペイン語通訳に代理で担当してもらうことになりました。

そのスペイン語を母国語とする選手も今年は不振やケガに苦しみ、多くの時間をファームで過ごしました。また打撃で思うような結果が出ないストレスからか、本来は長けている守備でも精彩を欠き、普段では考えられない落球をするなど、落ち込んで肩を落とす場面が増えました。また夏場に再びケガで戦線を離脱した際には、「ずっと痛みをかばいながらやってきた。みんな何かしらを抱えてプレーしているんだ」と、痛みが今に始まったわけではないことを涙ながらに告白しました。ここで私は、もっと早く気づいてあげるべきだった、と自責の念に駆られました。

もう一人の選手も長いスランプに苦しみ、21打席連続ノーヒットを記録するなど、夏場には成績不振に陥りました。日ごろは快活な彼も徐々に口数が減り、声にも張りがなくなるなど、心理的に落ち込んでいることは明らかでした。しかしそのようなときでも彼は決して弱音を吐かず、打開策を探して練習を続けました。全体練習が始まる前には早出でバッティングを行い、練習が終わったあともケージにこもり黙々とバットを振り続けました。その努力が報いられ、シーズン終盤には再び本来のバッティングを取り戻しました。

二人の主力外国人選手をそばで支え、二人が同時に活躍する光景を脳裏に浮かべながらキャンプを迎えた今年でしたが、理想とはかけ離れた一年となりました。同時に行動パターンの異なる二人を同時に担当する難しさも味わい、学びの多い一年となりました。来年は今年の経験を糧に、さらに選手から信頼される通訳者を目指し精進します。

前田悠也

前田悠也

東京都出身。中学から米国に留学。現在、巨人軍英語通訳

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