COLUMN
#38:選手家族(後編)
「選手家族(前編)」では、選手家族の対応は選手との関係構築にもポジティブな要素であるため丁寧に対処できるのが望ましいですが、一方で通訳者自身の時間とのバランスの取りかたの難しさについて触れました。後編では、私なりの選手家族との付き合い方や意識していることについて書きたいと思います。
◼️休日の対応もありうると心の準備をしておく
チームの休養日であっても家族対応があるだろうなと心の準備をしておきます。「今日は仕事のことは考えたくない」と思っている時に突然「どこどこに来てほしい」、「これを通訳してほしい」、「タクシーを呼んでほしい」と連絡が入ると「せっかくの休みなのに・・・」と気持ちが重たくなってしまいますので、そもそもそういうものだと思っておくだけで気持ちは楽になります。来日したばかりの時期は特にそうで、外国人でなくても住環境が変われば、スーパーやコンビニ、ホームセンター、病院、子どもがいる家庭であれば近くの公園や学校、家族で出かけることができる場所など、新しい土地に慣れるまで数週間もしくは数ヶ月かかることも珍しくありません。選手や家族構成によって生活に必要になるであろう情報を事前収集しておくと、素早く対応することにも繋がります。
◼️やってあげるだけではなく、やり方を伝える
タクシーを呼ぶにしても、最近は「GOタクシー」や「Uber」など電話をせずに簡単にタクシーを手配できるアプリがありますので紹介したり、レストランの予約にしても頻繁に訪れる場所であればウェブでの予約の仕方を伝えることで、その都度通訳者が電話をしたりネット検索する手間を省くことができます。日本語のサイトを閲覧するときにはGoogleで搭載されている自動翻訳をオンにしておくと、日本語が自動的に母国語に翻訳された状態で閲覧ができるので選手やその家族も母国語で理解できて便利です。ただし、初対面でいきなり「アプリを使ってね」と伝えると、「頼み事されるのがめんどくさいのかな」と受け取られかねないので、ある程度最初の時期は私(通訳者)が動いて要望に応えつつ、徐々に「自分が忙しくすぐに対応できない時はこういう方法(アプリ)があるよ」と、伝える時期を見定めるように気をつけています。
◼️異国に暮らすということを理解する
そもそも、異国に暮らすことは不安が付き纏うものです。私もコスタリカに住んでいたことがありますが、スペイン語もままならない頃はスーパーで買い物をするだけで「何か言われたらどうしよう」とドキドキしていました。現地の人に助けてもらったこともたくさんありますし、身近に日本語ができて現地の言葉がわかる人がいたら頼りたくなったこともありました。まさしく今は私(通訳者)が選手や選手家族にとってそういった存在であることを考えると、「自分の休日なのに頼み事が多くてめんどくさいな・・・」と思いそうになっても「些細なことでも力になってあげたい」との思えるようになります。外国人の目線に立つことは外国人のサポートの意味だけでなく、通訳者自身のストレス軽減の点でもとても重要です。
選手家族が安心して生活ができていると、選手と通訳者の関係が上手くいくだけでなく選手自身もプレーに集中することができるようになり、それは結果として選手のパフォーマンス発揮にもポジティブに影響します。そのために必要なサポートを提供するためには、通訳者自身が心身ともに健康であることが大前提です。そのためにも上手に自分(通訳者)の時間を確保しながら選手や選手家族と良好な関係を保ち、最終的にチームの勝利に貢献できるよう通訳者として努めていければと思っています。

加藤直樹
福島県出身。スポーツメーカー勤務後、独立行政法人国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊員として活動。その後、ジャイアンツアカデミーコーチを経て現在、巨人軍スペイン語通訳。