COLUMN
#42:ヒーローインタビュー(前編)

先日担当選手がヒーローインタビューに選ばれ、一緒に壇上に上がる機会がありました。
「ヒーローインタビューは緊張する?(https://www.spomane-inter.com/column/column-710/)」のコラムでは的確な通訳のために集中力が重要だと書きましたが、今回はもう少し詳しく、”良いヒーローインタビュー” にするために技術的に意識しているポイントについて書きたいと思います。
通訳者によって考え方は様々だと思いますが、わたしは、
①インタビュアーと選手のやりとりをできるだけスムーズにすること、
②選手の感情・思いを伝えること、を強く意識して臨むようにしています。
ヒーローインタビューは球場まで来てあるいは画面越しに観戦して下さったファンの方に直接選手の声を届けることができる貴重な機会ですから、形式的なやりとりで終わらせずに、選手の声をきちんと届ける、そういう思いでお立ち台に上がるようにしています。
とはいえ、年に数回あるかないかのお立ち台なので、なかなか実践機会が少なく、いつも反省することの方が多いのが実際ですので、コラムを書きつつ自分自身に向けても課題の再確認です。
◼️以下に ”間” をなくせるか
ヒーローインタビューは
①インタビュアーが質問→②通訳者が選手に質問を通訳→③選手が回答→④通訳者が回答を通訳、の流れで進行します。
ここで意識するポイントは上記の②を①と限りなく同時に終わらせてインタビュアーが質問を終えたらすぐに③選手が回答、できるようにすることです。
インタビュアーの質問を通訳者が聞いて、そこから全て通訳者をして、となると選手が回答するまでに数秒間会場が沈黙したような ”間” ができてしまい、これが質問のたびに続くとヒーローインタビューが間延びしテンポが悪くなります。
また、通訳者が質問を選手に耳打ち(通訳)しているときは球場は静寂になり、通訳者自身が変にプレッシャーを感じてしまう(=的確な通訳ができない)要因となってしまうこともあります。
しかしながら、事前に質問内容を知らされていないヒーローインタビューで、インタビュアーが質問を言い終わる前に全てを通訳することは物理的に無理ですし、どうしても時間差が生じてしまうのが実際のところ。
では②と①を限りなく同時に終わらせるにはどうしたらいいでしょう?
◼️「通訳」/「聞く」/「予測」を同時に実行する
先日のヒーローインタビューでは、「ご家族の見ている前で三者三振で締めました。
「いかがでしたか?」との質問がありました。このときは「見ている前で・・・」の辺りから選手に耳打ち(通訳)をはじめました。耳打ち(通訳)をしながらも自分の耳ではインタビュアーの声を聞いて訳していくので一瞬も気を抜くことができません。「家族の見ている前で・・」と耳打ち(通訳)をしている一方で「三者三振で締めましたが・・」とインタビュアーの声も聞き続けます。
さらに、頭の中ではインタビュアーの質問の締め括りの言葉をある程度予測しておきます。
例えば、「そのときの心境はいかがでしたか?」「どんな思いでしたか?」「あの場面を振り返ってどうでしたか?」などなど。質問の内容によって終わりの動詞を予測しておくことでインタビュアーが話し終えてすぐに通訳も追われるように準備します。短い質問であれば、質問が終わってからでも素早く通訳をしてそこまで間延びすることはないのかもしれませんが、質問が長くなればなるほど「通訳」/「聞く」/「予測」の三つの作業の同時進行がインタビュアーと選手の回答の”間”を短くするカギになります。
次回コラムでは二つ目の「選手の感情・思いを伝えること」について、選手の言葉、意図をきちんと伝えるためのヒーローインタビューでの通訳時の心構えについて書きたいと思います。
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加藤直樹
福島県出身。スポーツメーカー勤務後、独立行政法人国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊員として活動。その後、ジャイアンツアカデミーコーチを経て現在、巨人軍スペイン語通訳。