コラム

COLUMN

前田悠也

第5回:球場外の業務

球団通訳者の業務の一つに、ファンとメディアへの対応があります。
選手の疲労や精神状態を考慮して、これらをうまくコントールするのも通訳者の役割です。マナーを守って応援してくださるファンの方、良心的なマスコミの方がほとんどですが、稀に疑問に思わざるを得ないケースも見られます。

先日春季キャンプを終えて帰京した際、空港でサインや写真撮影を求めるファンに囲まれました。当然ですが、1か月間のキャンプを終えて移動してきた選手は疲れ切っています。
翌々日から再び練習が始まるため、自宅で休養に努めたいと願う選手に対し、大勢のファンがサインや写真撮影を求めます。「球場でね」と断られたにも関わらず、選手が乗り込もうとするタクシーまで付きまとう人や、ひどい場合は選手宅の敷地に無断で侵入してサインを求める人もいます。

今回も選手の自宅で男性がサインを求めて待ち構えていました。私有地につき退去するようにお願いしますが、「外なので関係ない」、「写真を撮っているわけではない」などと、弁を弄して立ち退きません。
しびれを切らした私は、「退去しないのなら写真を撮って警察に送る」と警告しました。そこでようやく、「それは困る」と言って去っていきました。マンションの警備員の方にも報告して、巡回を強化していただくことになりました。

また試合後には、選手が立ち止まって記者の質問に答える「囲み」や、歩きながら答える「ぶら下がり」と呼ばれる取材の対応がありますが、この際に、少しでも選手の声を明瞭にボイスレコーダーに収めようと、他者にぶつかったり、足を踏んでも謝らなかったりする記者も存在します。
あくまでこうした人たちは例外ですが、普段公にはならない通訳者の業務を知っていただく一助となればうれしいです。

前田悠也

前田悠也

東京都出身。中学から米国に留学。現在、巨人軍英語通訳

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