コラム

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前田悠也

第6回:担当選手の退団

プロ野球は結果を求められる厳しい世界です。
結果を残すことができなければすぐに二軍降格、もしくはシーズン終了後に契約を解除されます。外国人選手も例外ではありません。特に「助っ人」と称されることの多い彼らは、短い期間で日本野球に順応し活躍することを要求されます。
私が今シーズン担当する予定だった選手は、長打力と、常に全力でプレーする姿勢を評価されて入団が決まりましたが、オープン戦では期待されていた結果を残すことができませんでした。メジャー在籍時の乱闘騒ぎなどで気性の荒いイメージを持つ人も多かったと思いますが、彼と仕事をした2か月間で、そのイメージは払拭されました。
母国に牧場を所有し、馬好きで知られる彼ですが、「引退したら自分の動物園を作るんだ」と将来の夢を教えてくれました。

メジャー球団の多くでは本拠地のクラブハウスにサウナと水風呂が完備されているそうで、沖縄でのキャンプ中や、オープン戦期間中は毎晩のように彼とサウナに入るのが日課になっていました。
しかし日本では、タトゥーの入った彼は貸し切りの時間帯を除いて大浴場には行けません。歴史的な経緯を交えながらこの日本独特のルールを彼に説明した結果、理解を示してくれました。
彼のいいところは、たとえ一度不機嫌になっても、ねちねち引きずったりはせず、すぐに元通りになるところで、とてもさっぱりした性格をしています。また、ことあるごとに「ありがとう」、「ごめん」と言ってくれる、思いやりのある心の持ち主です。

車も彼の趣味の一つで、多くのスポーツカーを所有しているため、自動車大国である日本のモータースポーツにも非常に関心を寄せていました。サーキットでレースを観戦したいと話していましたが、実現する前に帰国してしまい残念です。

退団が決まった日の夜、私は彼のマンションにお別れを言いに行きました。「今までいろいろありがとう」と抱きしめてくれました。
2か月間という短い時間でしたが、彼と仕事をできたことは私にとって貴重な経験となりました。
開幕を目前に控えて退団という残念な結果になってしまいましたが、私の彼を応援する気持ちは今後も変わりません。

前田悠也

前田悠也

東京都出身。中学から米国に留学。現在、巨人軍英語通訳

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