COLUMN
第7回:医療用語の翻訳
球団通訳者の重要な業務の一つに、故障した選手のサポートがあります。
選手が訴える痛みや違和感を日本語に訳し、トレーナーやチームドクターの所見や診断を正確に通訳して選手に伝えなければなりません。野球選手に多いケガはある程度決まっているものの、故障する肉体の部位は選手によって様々で、その時々で通訳する内容も異なります。
トレーナーや医師と違い、球団通訳者のほとんどは医学的な専門知識を有していません。しかしながら、選手、トレーナー、チームドクターが同じ認識を共有して、復帰までの計画を立てることができるように、正確な通訳が求められます。
そのため通訳者は、選手から故障の報告があると、ケガを負った箇所とその周辺の筋肉、靱帯、腱、骨、神経などの名称や役割を、和英医学事典などを用いて予習します。そうすることで病院を受診する際やトレーナーから治療を受ける際、リハビリを行う際にスムーズに通訳を行うことができます。
しかしながら、専門的な知識を有していない点では、選手も通訳もあまり変わりありません。いくら難しい専門用語を覚えて通訳したところで、選手がそれを理解していないと意味がありません。
理想はそれぞれの肉体の部位の役割を易しい言葉で翻訳することですが、それができない時はトレーナーや医師に簡単な言葉で説明してもらい、それを通訳します。
一番大切なのは選手に納得して復帰までの段階を踏んでもらうことです。そのために、現場のスタッフは力を合わせて選手のサポートを行います。
またオフシーズンには、獲得する可能性のある外国人選手や、海外の他球団に移籍する外国人選手の既往歴を翻訳する業務も行います。この業務は球団が獲得を検討している選手の故障リスクの評価や、そのシーズンまで球団に在籍した選手が新しいチームと契約する際に役立てられています。
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前田悠也
東京都出身。中学から米国に留学。現在、巨人軍英語通訳