コラム

COLUMN

前田悠也

第24回:オーストラリア滞在記(中編)

オーストラリアで行われるウィンターリーグは、11月上旬から1月下旬までの間に40試合が行われます。私が通訳を担当する日本人選手は、そのうちの1か月半をチームの一員として過ごすことになりました。先発投手2名、野手1名に分かれる彼らを、1人の通訳が担当します。以前のコラムにも記しましたが、日本のプロ野球では通常、通訳は担当する選手のポジションによって分かれています。しかし今回彼らと行動を共にする通訳は私だけだったため、ベンチとブルペンを往復する日々が続きました。試合中はベンチで野手に相手投手の特徴を伝えたり、コーチからのフィードバックを訳したりするほか、先発投手がピンチを招いた際に投手コーチとともにマウンドに赴いたり、イニングを終えてベンチに帰ってくる投手とバッテリーを組む捕手の会話を訳したりと、日本で行われるレギュラーシーズン期間中はできない体験をしました。

台湾遠征などに参加した経験のある選手も中にはいたものの、実質的に海外での生活は初めての選手ばかりだったため、当初は言語、文化、食生活、環境などの違いに辟易するのでは、と心配していました。しかしみな、最初の1週間で驚くべき適応力を見せ、時間が経つにつれて自分たちの境遇を楽しむようになっていたのは印象的でした。日本食が恋しくなったときは自分たちで地元の和食レストランを探し、オフの日にリフレッシュしたいときには地元の観光スポットを探して自分たちで交通手段を確保して移動するなど、異国の地でもたくましく日々を送る彼らの姿は、見ていて実に頼もしいものでした。

しかし同時に、豪州の地では自分たちが外国人であることも痛感したようで、とある選手は、「海外では孤独ですね。日本に帰ったら外国人選手にもっと積極的に話しかけようと思います」と話してくれたり、別の選手は、「マウンドに言葉の通じる人が来てくれると本当に安心する」と言ってくれたりしました。選手たちのそうした言葉を聞いて、私は通訳冥利に尽きると感じると同時に、自分が日本で外国人選手と接する日々の業務の重要性を再認識しました。

後編では、遠征先でのエピソードや、指導者、チームメート、地元の人たちなどとの交流について書きたいと思います。

前田悠也

前田悠也

東京都出身。中学から米国に留学。現在、巨人軍英語通訳

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