COLUMN
第27回:球団通訳者にとっての春季キャンプの意義

毎年この時期になると、「球春到来」、「新生〇〇始動」、「キャンプイン」などの見出しがスポーツ紙に踊り、いよいよシーズン開幕までのカウントダウンが始まります。プロ野球選手にとって、自主トレや春季キャンプはシーズンを通して戦い抜く体力と技術力を養うための重要な期間ですが、実は球団通訳者にとってもそれは当てはまります。今回は球団通訳者にとって春季キャンプが重要な理由について書きたいと思います。
まずは体力の向上です。球団通訳者はそのほとんどがプロ野球選手としてプレーした経験のない一般人です。しかしシーズン中は体力自慢のプロ野球選手と行動を共にして、練習に立ち会い、ベンチに入り、遠征先に移動します。体力を欠いては仕事になりません。1か月間自宅を離れて選手を公私にわたりサポートすることは体力的に簡単なことではありませんが、この期間を過ごすことがシーズンを迎えるための「準備運動」になり、心身ともにベストな状態で開幕を迎えることができます。
次に選手との信頼関係の構築です。特に新入団の外国人選手と仕事をする場合、キャンプ期間中に良好な関係を築くことがその後の信頼関係を大きく左右します。その選手の性格や傾向を観察して、どのような接し方が適切か判断します。そして家族のサポートや生活基盤の構築を積極的に行い、選手の信頼を勝ち取る努力をします。心を開いてくれるまでの時間は人によって異なりますが、この1か月間がその後の選手と通訳の関係性を決定づけると言っても過言ではありません。
最後にサインを頭に叩き込む時間の確保が挙げられます。プロ野球では攻守において、複雑なサインプレーがたくさん存在します。日本野球のサインは米国や中南米の野球と比べて複雑で覚えることも多いため、通訳は選手に対して的確に各種サインを伝達できるよう、この期間を使って攻守のサインを暗記します。 シーズン終了まで万全の状態で選手をサポートできるようするため、春季キャンプ中は球団通訳者も研鑽を欠かしません。
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前田悠也
東京都出身。中学から米国に留学。現在、巨人軍英語通訳