コラム

COLUMN

前田祐也

第33回:野球場にお地蔵さん?

先日の変化球に関するコラムにも記したように、投手と打者の間にはさまざまな駆け引きが存在します。

以前のコラムでは配球や「奥ゆき」など、主に投手側の駆け引きの方法についてお話しましたが、今回は打者が投手と対戦する上で用いる策と、その対訳について書きたいと思います。

先発投手はよほど調子が悪いか、故障などのやむを得ない場合を除いて、少なくとも勝利投手の権利を得る5回まで、もしくは100球前後の球数に達するまで投げ続けます。すなわち打者にとっては、相手チームの先発投手とは複数回にわたり対戦する場合がほとんどです。毎回結果を出せるとは限りませんが、2巡目以降の対戦に備え、打者と投手の駆け引きは第1打席の時点ですでに始まっています。

その駆け引きの一つに、打席で来たボールにまったく手を出さず(バットを振らず)に、相手投手の配球を探ったり、打者有利のカウントを作ろうとしたりする、「お地蔵さん」と呼ばれる概念があります。たとえばバッターが、ストライクゾーンのど真ん中に来た直球を意図的に見送ったとします。安打を放つには絶好に見えるボールをあえて見逃すのです。すると相手バッテリーは、このバッターが変化球に狙いを絞っていると警戒して、結果的に直球を投じる確率が高くなります。こうすることによって打者は相手を困惑させて、自分が本当に待っているボールを投げさせるのです。

打席で全く動かずにただ立ち続けるその姿から、「お地蔵さんになる」、「お地蔵さんをする」などと呼ばれています。これを英語では、“statue take”と言います。“statue”は“bronze statue”(銅像)などのように、なんらかの彫像を表します。“take”は「~を取る」という初歩的な英単語ですが、野球では(来たボールを)「見送る」という意味になります。言語は違っても、「お地蔵さん」と“statue”は両者とも「像」という意味で共通している点は非常に興味深いと思います。

前田祐也

前田祐也

東京都出身。中学から米国に留学。現在、巨人軍英語通訳

一覧へ戻る