COLUMN
第34回:「テキサス・リーガー」と「NG集」

みなさんは野球の試合をご覧になっていて、「カンチャンヒット」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。もしかしたら「ポテンヒット」のほうがなじみのある表現かもしれません。これは多くの場合小フライで、決していい当たりではないものの、内野と外野の間に落ちてたまたまヒットになる打球を指す言葉です。これを示す英語で、ネイティブスピーカーにも通じる言葉に「テキサス・リーガー」(“Texas Leaguer”)がありますが、より日常的に使われている呼び名が存在します。
まず日本語の表現から説明します。「ポテンヒット」とは文字通り、内野と外野の中間に「ポテン」と落ちることからそう呼ばれています。それに対し「カンチャンヒット」ですが、麻雀用語の「嵌張」がもとになっているため、このゲームになじみのない人はピンとこないかもしれません。
「テキサス・リーガー」の由来ですが、MLB公式サイトによると、1901年、当時のクリーブランド・ブルース(現在のガーディアンズ)に在籍していたオリー・ピカリングがメジャーに昇格する直前、マイナーの「テキサス・リーグ」で伝説的な活躍を見せていたそうです。その後ピカリングがメジャーデビューした際に7打席連続ポテンヒットで出塁したそうで、当時のチームメートが、彼が直前までプレーしていたリーグにあやかってそのようなヒットを“Texas Leaguer”と呼び始めたことから、それが「ポテンヒット」の名称として定着したそうです。
「カンチャンヒット」や「ポテンヒット」を表す英語ですが、「テキサス・リーガー」のほかに、“blooper”という表現があります。日常会話で“blooper”と言うと、「失敗」、「ドジ」、「ヘマ」などを意味します。また、映画やドラマの撮影中に役者がセリフを忘れたり、セットの不具合など、なんらかのアクシデントで撮影が中断されたりした際の映像を集めた、いわゆる「NG集」も“bloopers”と呼ばれ、DVDやBlu-rayなどの特典映像として本編と共に収録されていることもよくあります。たしかに、ボールをきちんとバットの芯でコンタクトできなかったことに関しては「失敗」と呼べるかもしれませんが、結果的に安打になった打球に「ドジ」や「ヘマ」を意味する言葉をあてがう点は、非常に興味深いと思います。
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前田祐也
東京都出身。中学から米国に留学。現在、巨人軍英語通訳