COLUMN
#40:野球用語とスペイン語(後編)

前回コラムでは、同じスペイン語でも国や地域が違えば野球用語の表現が違うことや、英語表現がそのまま使用されていることについて紹介をしましたが、投手が投げる場所「マウンド」のスペイン語がまさしくそれで、キューバ独特の言い方があることをつい先日知りました。
◼️検索しても出てこない
ある日キューバ人の選手が「『bo(ボー)』が良くない。」と訴えていました。そのとき私は「bo」が何を意味するのかわからず、選手に聞いても「『bo』は『bo』だよ!」と「なぜわからないんだ?」とむしろ選手が困惑。スペイン語の発音上最初の母音が強く聞こえて後ろは発音があまりされないという傾向があるため、ボールを意味する「Bola(ボーラ)」か変化球の「fork(フォーク)」の語尾が省略されて「Bo」や「fo」と言っているのかとも思いましたが、話がなかなか噛み合いません。選手が「投手が投げるところだよ」と言ってくれてようやく野球の「マウンド」のことだとわかりました。マウンドはスペイン語で一般的に「montículo(モンティークロ)」や「lomita(ロミータ)」と表現しますが「bo(ボー)」はそれまで一度も耳にしたことがありませんでした。その後「bo マウンド」のように単語を並べてネットで検索してみましたが、マウンドは愚か野球に関連する検索結果はなく、辞書でも見当たりませんでした。
◼️Chat GPTに聞いてみた
そこでChatGPTに「キューバではマウンドのことを『bo』と表現するの?」とスペイン語で質問をしてみました。すると、「昔、英語でマウンドのことを『box(ボックス)』と言っていた名残でキューバではそのまま使用されることがあり、語尾のxが省略されて『bo』と聞こえる」と即座に回答があり、やっと理解でき腑に落ちました。まさしく英語由来で且つ地域特有な表現で、こういった単語は語学学校や辞書はもちろんネット検索でも知ることは難しいことがわかります。同時に、複雑な質問にもすぐ回答できるChatGPTの利便性を再確認できた例となりました。
◼️「野球スラング」の学習にAIを活用
俗語や隠語などいわゆるスラングと呼ばれる表現は、ある特定のコミュニティや階層、グループ内での使用に限られているためなかなか外部の人が聞いたり理解したりすることが難しいものですが、Chat GPTのようなAIはネット上に存在するあらゆる情報を精査し整理した上で回答できるので、スラング表現の学習にとても便利です。例えば「外甘高(そとあまだか)」という野球特有の表現は野球に馴染みがあれば知っていると思いますが、野球を知らない人にとってはなんのことかさっぱりではないでしょうか。ちなみにChat GPTの回答は「外甘高(そとあまたか)という表現は、野球において使われる日本語のピッチャー用語で、外角寄りだけどコースが甘くて高めの球」でした。前述の「box」の例も同じで、スペイン語・地域ならではの野球スラングは数えきれないほど存在します。ポイントは、現場で知らない言葉に遭遇した時にAIを利用して調べるだけでなく、先回りをして予習しておくこと。「キューバではマウンドを『box』と表現するように、他の国でもその地域でしか通じない言い方はある?」質問したり、日本語での野球俗語はスペイン語でなんというのか前もって調べたりします。日本語では豪速球が「火の玉ストレート」と表現されるように、スペイン語では「tira fuego(=火を投げる)」や「tira piedra(=石を投げる)」などと表現されたりします。
過去の「翻訳アプリケーション」のコラムで書いたように、Chat GPTなどの生成AIは慣用句やスラングなどを学習するのにとても便利ですので、語学書や書籍だけでは拾えない語彙を身に付けたいときには、私もよく利用します。会話感覚で使うと楽しみながら語学力のブラッシュアップができるのでみなさんも参考にしてみてください。
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加藤直樹
福島県出身。スポーツメーカー勤務後、独立行政法人国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊員として活動。その後、ジャイアンツアカデミーコーチを経て現在、巨人軍スペイン語通訳。