COLUMN
第38回:頭の回転をスピーディに保つ方法(後編)

前回のコラムでは、頭脳の回転をスピーディに保つ方法として、睡眠の質を向上させることの重要性についてお話ししました。脳が必要としている休息をしっかりと確保することによって、それぞれの言語でスムーズに対訳ができるようになります。今回は、日中に活動している間にできる工夫についてお話したいと思います。
まずは活字を読むことです。科学的な根拠があるかは不明ですが、私は読書をしたり、新聞に目を通したりした日ほど、通訳者としての「調子がいい」、すなわち「脳内の切り替えが速い」と感じます。ネットで調べてみると、活字を読むことによって記憶を司る前頭前野など、脳が広範囲にわたって活性化されるようで、記憶力や集中力の向上など、活字と脳の機能には一定の因果関係があるようです。入団したばかりのころ、先輩通訳から、「自分たちの仕事は聞く、理解する、覚える、訳す。これの繰り返しだ」と教わりました。これらを一日のうちに幾度となく繰り返す通訳者にとっては、先述の記憶力や集中力などが不可欠です。本拠地での休憩時間や、遠征先でホテルから球場にバスで移動する際の時間などを使って新聞の記事や本を読むことによって、自己投資に充てると同時に、仕事中によりよいパフォーマンスを発揮することができるよう心がけています。
続いて糖分の摂取が挙げられます。当然のことながら、甘いものの摂りすぎは糖尿病などを引き起こすリスクがあるのでおすすめできません。しかしながら、カロリーは脳の働きにとって重要な役割を果たします。受験勉強の際、チョコレートなどを口にしながら学習に励んだ経験をお持ちの方も多いと思います。通訳者にとってもそれは同じで、持続的なカロリー摂取が仕事の質にも好影響をもたらします。プロ野球の試合は、ときには4時間を超すこともある長丁場です。大抵通訳などのスタッフは試合開始の1時間ほど前に食事をとりますが、試合が終盤に差し掛かるころには空腹を感じることも珍しくありません。試合中に選手間、もしくは選手とスタッフなどで交わされる会話の内容を正確かつ迅速に訳すのはもちろんですが、球団通訳者にとって最大の見せ場であるヒーローインタビューなどは試合終了後に行われるため、試合中も常に脳に栄養がいきわたっている状態を保つことが望ましいといえます。そのため私は、試合中は常に飴をなめたり、イニングの間に甘いものを口にしたりして、試合時間にかかわらず良質な通訳ができるよう努めています。
一覧へ戻る
前田悠也
東京都出身。中学から米国に留学。現在、巨人軍英語通訳