COLUMN
第40回:「武器庫」と「東西南北」

先日のコラムでは、変化球は大きく分けて曲がり球と落ち球に区別されると書きました。それらには「伸び」、「キレ」、「奥ゆき」などの概念が加わり、それぞれの球種の特徴を表す英訳についてお話ししました。
今回は、投手の持ち球や打者目線からの印象など、ピッチングに関して多用される表現についてお話します。
まずピッチャーの持ち球や球質を表す表現に“stuff”と“arsenal”があります。
両者の具体的な違いを説明することは容易ではありませんが、どちらもその投手の持つ球種やその変化量などを一括りにして説明する際に用いられる表現です。
“stuff”は「もの」、“arsenal”は「武器庫」をそれぞれ表す英単語ですが、野球用語に置き換えると「球種」、「球質」を意味します。最近では“Stuff+”と呼ばれる、その投手が投げるボールの球速や回転数などを物理的に分析して、いかにその投球が効果的かを示す指標が導入され、メジャーリーグにおける投手の能力分析や育成に役立てられています。
次に投手が打者と対峙する上で、「高低」と「左右」の投げ分けが行われます。高低はご想像の通り“up”、“down”、左右は内角、外角を表すので“in”、“away”と呼びますが、投手のタイプによって攻め方はさまざまです。高めの速球を見せ球(“show-me pitch”)として投げてカウントを取った後、低めの変化球で空振りを取ったり、凡打を打たせたりしようとする投手は、ストライクゾーンを縦(南北)に使うことから、“north-to-south pitcher (guy)”と形容されます。
それに対し、ゾーンの出し入れ(内角と外角の投げ分けによって打者の目線をずらす)で勝負する投手は、“east-to-west pitcher (guy)”と表現します。
最後に打者から見た投球の印象で使われる表現についてお話します。
バッターは自分の打席が終わると、対戦した投手の特徴を後続の打者に伝えます。外国人選手が日本人選手に相手投手の特徴を伝える場合は身振り手振りを交えて通訳を介さずに伝わる場合がほとんどですが、その逆の場合や、より具体的な特徴を伝えたい場合に多用される表現をいくつかご紹介します。
まず、「キレ」を意味する言葉に“bite”がありあす。
直訳すると「噛む」という動詞ですが、投球においては「キレのある」という意味になります。また、差し込まれる(タイミングが遅れる)ようなボールを表す動詞で、“get on”があります。“His heater gets on you”などのように使われ、球速はさほど速くないものの、腕の使い方やリリースの仕方で速く感じるときなどによく使われる表現です。
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前田悠也
東京都出身。中学から米国に留学。現在、巨人軍英語通訳