COLUMN
第42回:取材で多用される表現と役立つ豆知識(後編)

インタビューなどの最後でよく聞かれる質問に、「今後に向けた意気込み」というものがあります。入団会見では「今シーズンにかける意気込み」、シーズン終盤では「残りの試合にかける意気込み」、「プレーオフや日本シリーズ進出にかける意気込み」、など、選手に今後の目標を話してもらい、取材を歯切れよく終わらせるための質問です。
ここで質問の内容が、打率や勝利数などの具体的な数字に言及している場合は“goal”を使うのも一つの手ですが、「チームの勝利に貢献したい」などの抱負を述べることが圧倒的に多いため、ここでは“resolution”を使って訳すことで質問者が求めている答えを引き出すことができます。
たとえば、“Would you share with us your resolutions for the rest of the season?”などと聞くと、選手も答えやすくなります。
これらの表現は取材で頻繁に使われるものの氷山の一角にすぎませんが、すばやく学んで自分のものにできる方法の一つに、動画共有サイトなどで海外のインタビューを視聴することが挙げられます。
たとえばみなさんがプロ野球通訳を志しているなら、メジャーリーグのインタビュー動画をネットで視聴して、インタビュアーがどのような表現を用いながら質問しているか観察することによって「表現の引き出し」が増えて、現場で似たような質問に遭遇した際、よりスムーズに通訳できるようになると思います。
いざ現場に出て取材の通訳をするようになると、まれに「語尾のない質問」や、「文章が途中で途切れている質問」に出会います。多くの場合、取材経験が浅いか、取材する分野の知識が乏しい記者によく見られます。
たとえば外国人投手が打たれて失点して、うなだれている中試合後の取材に応じたとします。メディア側も選手の心情を察しつつ、失点した場面を振り返ってもらえるように質問します。しかしこのとき、選手の感情を慮るあまり、「あの場面は悔しい結果となりましたが…」などのように、フラグメント(断章)のまま質問の途中で言葉を切ってしまう人がいます。
しかし、これでは質問として成り立たないため、通訳のしようがありません。質問は、前回のコラムに記した“How would you…”のような疑問形か、“Walk me through…”のような陳述になっていることが求められます。このような質問が来た場合は、むやみに途中で訳し始めずに沈黙を貫き、質問者が肝心な部分を口にするまで待つか、それでも続きの言葉が出てこない場合は、「何を聞きたいのか」こちらから聞くことによって、質問の内容を明確にできると思います。
一覧へ戻る
前田悠也
東京都出身。中学から米国に留学。現在、巨人軍英語通訳