コラム

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加藤直樹

#57:キャッチボール(前編)

二人ひと組でボールをお互いに投げ合うキャッチボールは野球経験のない人でもなじみのある言葉ではないでしょうか。遊びでもお馴染みのキャッチボールはプロでもアマチュアでも、ピッチャーでもバッターでも必ず毎日行う基本練習の一つです。プロ野球通訳者になるのに必須条件ではありませんが、キャッチボールができると球団からも重宝されますし、選手との信頼関係にとっても大きなプラス材料になるのも確かです。キャッチボールは通訳者にとってただのウォーミングアップではなく、選手との心の距離を縮めるツールの一つにもなり得ます。ちなみにスペイン語では「キャッチボール」の言い方は国によって様々で、aparar(アパラール)、calentar(カレンタール)、soltar(ソルタール)、bolear(ボレアール)など中南米地域によってそれぞれ違った表現があるのが特徴的です。

◼️選手が「野手」の場合

シーズンが始まると試合のある日は、野手と呼ばれる投手以外のポジションを守る選手はそれぞれのバッティング練習開始時間に合わせてストレッチやダッシュなどのウォーミングアップを始めます。キャッチボールを含めた守備練習は早い時間にバッティング練習が設定されていればバッティングをした後で、遅い時間の組で打つ場合はバッティングをする前にキャッチボールをして守備練習を済ませます。

キャンプ中のように試合がなく全体で練習する場合は野手同士でキャッチボール相手を探すことができます。しかし、試合のある日は練習のタイミングがそれぞればらばらになるためキャッチボール相手を探すにも手間がかかることがあります。そんなとき一緒に行動する通訳者がキャッチボール相手を務めることができると、選手にとっては相手を探す手間が省けるのでとても助かります。

もちろん通訳者ができない場合は、同じタイミングでキャッチボールをする野手を探したり、野球経験のある別のスタッフで手が空いている人を探してお願いすることもできます。ただ、毎回誰かを探すよりも普段から行動をともにする通訳者がキャッチボールの相手ができると練習の流れもスムーズになります。とりわけ野手の場合は肩慣らし程度に軽めに投げることが多いため、キャッチボール相手をすること自体はそれほど難しいことではありません。

◼️選手が「投手」の場合

投手の場合は基本的には選手同士、もしくはブルペンキャッチャーと呼ばれる投手のボールを捕ることを専門としたスタッフが投手のキャッチボール相手を務めます。ただ、タイミングによってはペアを探すのに余っている選手がいなかったり、ブルペンキャッチャーの人がいないこともあり、そうしたときには通訳者が相手になることもあります。

しかし、投手のキャッチボールは野手とは事情が少し異なります。投手は投げることが専門の人たちなので肩慣らしだけでは終わらず、70m〜100mと長い距離を投げたり、近い距離では強いボールや変化球を投げて投球感覚を確認する「フラットスロー」を行うこともあります。フラットスローとは、相手を座らせてマウンドから投げるのと同じような強度で投げることを指します。 そのため野手のキャッチボールに比べると難易度は一気に上がります。

私自身は野球経験があるため投手のキャッチボール相手をすることもありますが、選手が一通り肩を温めたあとに近い距離からフラットスローをするときは、とにかく集中していないと捕ることができません。ケガのリスクも高まるため、いくら野球経験があっても投手とのキャッチボールは専門スタッフに任せるのが基本と言えるでしょう。

それでも、肩慣らしの段階だけでも通訳者が相手を務めることができれば、ブルペンキャッチャーが他の選手のボールを受け終えるまで待つ時間を減らすことができます。限られた練習時間を有効に使うという意味でも、通訳者がキャッチボールの相手をできることには一定の価値があると言えるでしょう。

野手でも投手でも、通訳者がキャッチボールの相手をできると他の選手やスタッフの手間が省けたり、選手の効率的な練習にもつながるというメリットがあります。それだけでなく、冒頭で述べたように選手との信頼関係を築く上で大きな役割を果たします。次回はキャッチボールを通じて生まれた外国人選手との具体的なエピソードについて紹介したいと思います。

加藤直樹

加藤直樹

福島県出身。スポーツメーカー勤務後、独立行政法人国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊員として活動。その後、ジャイアンツアカデミーコーチを経て現在、巨人軍スペイン語通訳。

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