COLUMN
#62:プロ野球通訳者の“コンシェルジュ業務”

外国人選手を担当していると、言葉の面でのサポート以外にも、雑用的なことから私生活に関することまで様々なリクエストが日常的によくあります。「〇〇がほしい」、「〇〇に行きたい」、「〇〇を手配してほしい」などなど。有名人のマネージャー、或いはホテルのコンシェルジュに例えるとわかりやすいかもしれません。雑用を上手く対応できると選手の信頼の獲得につながり、結果的にパフォーマンスに集中できる環境の提供に貢献するのだと日々実感しています。
◼️当日に「記念日用にバルーンの飾り付けと花束を手配して」
スマートフォンが普及している最近は、ネットでなんでも検索もできますし、ウーバーイーツなど宅配サービスや英語対応可な業者も増えてきましたので、外国人にとっても住みやすくなってきた近年は、グラウンド外のことについて英語ネイティブの選手は比較的、通訳者を頼らない傾向があります。一方で、スペイン語圏の選手は言語の壁もあってまだまだ通訳者を介することが多く、スペイン語通訳者はまずその点を心構えしておくことが大切です。「家族の誕生日のためのレストランを探してほしい」、「記念日のためにオーダーケーキと花束を用意したい」などのイベントをはじめ、「部屋の電球が切れたから替えてほしいとマンション事務所に伝えて」や「〇〇レストランを予約して」など日常生活のことも通訳者に連絡がくることは日常茶飯事です。
先日も「今日は結婚記念日だから花束とバルーンのデコレーションを手配してほしい」と当日に依頼されたことがありました。しかも球場に移動中のときでこれから業務が始まる前の時間。初めてであれば、「今からは無理でしょ…」と諦めていたかもしれませんが、過去の経験もあったため、対応してくれそうな業者のインスタグラムの参考写真を選手に見せて希望を聞き、業務と連絡を取りながら希望商品の配達方法や支払い方法などをやり取りし慌てずに要望に応えることができました。
◼️試合の最中に「エナジードリンクを買ってきてほしい」
別の日には、すでに試合も中盤に差し掛かった頃、後半のイニングに投げることを想定し準備していた担当選手から「エナジードリンクを探してほしい」と依頼されました。普段は自分で買ってきて持ってきているのですがその日は買う時間がなく持って来れなかったのだそうです。時間もあまりなかったので「言うならもっと早く言ってくれよ…。もう今からじゃ間に合わない」と言いそうになりましたが、パフォーマンスに影響しかねないと思い、「わかった!」と球場周囲を探しに行きました。ところが、走り回って探しても一向に見つかりません。ここまで探して見つからなかったら選手も理解してくれるだろうと諦めかけましたが、ダメ元で球場管理会社のセキュリティスタッフに聞いてみました。すると、セキュリティスタッフ事務所に確認をした上で、事務所に保管してある冷えたエナジードリンクを一本融通してくれることになりました。先方には丁重にお礼を伝え目的のエナジードリンクを受取り、時間に間に合うかたちで選手に渡すことができたときは本当にほっとしました。「どこにも売ってなかったけど警備員がくれたよ。今日は運が味方してるね」と言って選手に渡すと「それはよかった。ありがとう!」とお礼を伝えてくれた上でブルペンに向かいます。
そのあと登板機会が訪れたその選手は、いつも以上の快投を見せてチームの勝利に貢献してくれました。言語のサポートだけでなく、雑用に見える些細なことも選手がパフォーマンスに集中するためには意味があるのだと感じさせられた日となりました。
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通訳者は言葉のサポートを含め、これまでのコラムでも書いてきたように様々な役割を担いますが、その根底にあるのは選手に「安心感」を提供することなのだと感じています。今回紹介した二つのエピソードも、一見すると雑用のように見えるかもしれません。しかし、私生活であれ球場内であれ、選手が余計な不安やストレスを抱えずプレーに集中できる環境を整えるという意味では、どちらも非常に大切なサポートです。派手な仕事ではないかもしれませんが、選手が安心してプレーできる環境を整えることもまた、スポーツ通訳者の大切な役割なのだと思います。
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加藤直樹
福島県出身。スポーツメーカー勤務後、独立行政法人国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊員として活動。その後、ジャイアンツアカデミーコーチを経て現在、巨人軍スペイン語通訳。