コラム

COLUMN

加藤直樹

#65:会食でも仕事モードは続く

ときどき「選手と食事によく行くんですか?」と聞かれることがありますが、やはり言葉の面で壁がある外国人選手が日本人選手や日本人スタッフと食事に行く際は通訳者も一緒に行くことが多いです。食文化の違いからくる誤解や偏見のエピソードについてはちょうど前回コラムで紹介しましたね。日本人と外国人選手の異文化理解をフォローすることの大切さにもついて触れました。一方で、通訳者の方によって意見は別れるとは思いますが、私の場合は本来は仕事の息抜きであるはずの楽しい会食ですが、通訳者として同席した場合、文化面の橋渡しなどフォロー的なこともそうですし、そもそも会話が続く限り通訳をしなければならないことを考えると、どうしても仕事感が拭えないなぁというのが本音だったりします。

マシンガントークの店主

通訳年数もまだ浅いころのことですが、外国人選手と通訳の自分が、記者の方のお誘いで焼肉店に行ったことがありました。お肉が美味しくてメニューも豊富、お店のオーナーも大の野球ファンともあって、選手も私も楽しみに入店。店主も中心選手として活躍していた外国人選手の来店を大変喜んでくれました。と、ここまではよかったのですが、オーナーがそれはそれはおしゃべり好きで、食事の間ずっと私たちの席につきっきりで、料理の説明から野球の話、選手への質問などなど、話が止まりません(苦笑)。当然、「何を話しているんだ?」と興味津々な選手に通訳をしなければならならず、自分は全く食べる暇がありません(泣)。会話の合間に箸が動いていない自分に気づいたオーナーが「どんどん遠慮せず食べてね!」と気前良く声をかけてはくれましたが、「いやいや!あなたが一向に話を止めてくれないから食べられないんです!(泣)」と密かに心の中で叫びながら、急いで一切れ口に入れるとまた話は延々と続き…。お肉の味を楽しむ余裕はなく、合間を見てはささっと口に流し込み、通訳を続け…といった具合が会食の間続きました。

結局お店を出る頃には選手がたくさん食べられて楽しく過ごすことができたので何よりですが、通訳しきっきりだった自分としては、通訳者としての会食はしばらく行かなくていいかなと感じたのが本音で、今では笑い話ですが当時は苦い思い出でもありました。

◼️普段よりも数段お酒に強くなる

これも個人差はあると思いますが、私の場合は通訳者として同席した会食では、普段よりもお酒に強くなるというのが経験的にあります。おそらくこれは、冒頭でも書いたように、仕事と感じることで完全にリラックスしきれないというのもあると思いますし、また通訳として同席している以上はろれつが回らなくっては通訳ができないと脳が無意識に理解しているからでもあるかもしれません。

ある年のシーズン終了直後、担当外国人選手がお世話になったトレーナーさんを感謝の気持ちを込めて食事に招待したいというので同席しました。シーズンも終わったあとだったため、お酒の量も自然と増えて、普段は決して飲まないような度数のお酒もどんどん進みました。自分がだいたいどのくらい飲めるかは知っていましたが、明らかにその量は越えていて、でもしっかり最後まで記憶もあり、食事の間は通訳もして、ちゃんと帰宅して翌日も普段通りの時刻に起床。ところが後日聞くとその夜は一緒に行ったトレーナーさんのひとりは飲み過ぎて記憶がなく、もうひとりは自宅の最寄り駅を寝過ごしてしまったそうです。通訳の必要のない日本人同士の飲み会であれば自分も同じようになっていたかもしれません。

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経験を重ねてきて、最近では会食の席でも通訳しながらでも楽しむ余裕はできていましたが、やはり会話が続く限りは仕事の延長上となってしまい100%リラックスしきることはなかなか難しいなと感じています。ただ、選手が食事を楽しみ、日本人選手やスタッフとの会話を楽しみ、笑顔で店を後にする。その姿を見ると、「今日は自分の役割を果たせたかな」と感じます。これも一つのやりがいなのかもしれません。

加藤直樹

加藤直樹

福島県出身。スポーツメーカー勤務後、独立行政法人国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊員として活動。その後、ジャイアンツアカデミーコーチを経て現在、巨人軍スペイン語通訳。

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