コラム

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前田悠也

第48回:日本人選手と通訳

球団通訳者は主に外国人選手と行動を共にします。試合中の会話の際、通訳を介して日本人選手と外国人選手がコミュニケーションを取っている場面以外で、日本人選手と通訳の接点は想像しづらいかもしれません。しかし外国人選手がチームに溶け込み、日本で結果を残すために重要なのが、すでに在籍している日本人選手と国籍や言語の壁を越えて、信頼関係を築き友情を育み、ロッカールームでも孤独を感じることなく過ごせることです。そこで懸け橋となるのが私たち通訳です。普段は外国人選手との関係性について書くことが多いコラムですが、今回は視点を変えて、日本人選手の存在が私たち通訳に与える影響についてお話します。

初めて来日する外国人選手にとって、習慣、言語、食文化など、全てが大きく異なります。同じユニフォームに袖を通したからといってすぐ、以前から在籍している選手の気心知れた仲間になれるわけではありません。最初は周りの日本人選手の言葉を理解できず、疎外感を感じる選手もいます。そのような環境のなかでも外国人選手は、日本語のあいさつを覚えたり、積極的に箸を使って食事したり、不慣れな電車通勤にチャレンジしたりして、新生活に適応しようと必死に努力します。そうした姿勢を目の当たりにすることによって、周囲の日本人選手も、何とか力になってあげたいと、自発的に外国人選手と交流しようとします。このように相互の理解が深まり、両者の距離が縮まることによって、チームは徐々にまとまりを見せはじめます。若手の日本人選手が経験豊富な外国人選手からアドバイスを受けたり、逆に新外国人選手は古参の日本人選手から日本球界のプレースタイル、習慣、しきたりなど、成功を収めるために欠かせない情報を教えてもらったりします。

実は通訳としていちばん頼りがいがあるのが、外国人選手を積極的に仲間に入れようと心づかいをしてくれる日本人選手、とりわけベテラン選手の方々です。当然、私たち通訳も、外国人選手が周囲に受け入れられ、異国の地でも最高のパフォーマンスを発揮できるようにそばで支えます。しかし、ときにはそれ以上に効果的なのが、国籍は違えども同じプロ野球選手としての共通点を持ち、輝かしい実績を持つそのチームのベテラン選手に理解を示してもらい、日ごろから気にかけてもらうことです。そのように、チームリーダー格の選手から食事に誘われたり、助言を受けたりすることで心の拠りどころができて、外国人選手はチームに自分の居場所ができたと感じ、そういった場面で通訳を務める私たちに対しても、しだいに心を開いてくれるようになります。

私は「助っ人」という言葉が好きではありません。そこには「いつか去ってしまう」というニュアンスを感じるからです。人種や国籍に関係なく、同じ目標に向かい力を合わせて戦い、遠征先では寝食を共にする仲間です。しかし来日する外国人選手が名実ともにチームの「仲間」になるまでは、通訳の支えのほかに、周りの日本人選手の厚意があることも、ぜひ知っていただきたいと思います。

前田悠也

前田悠也

東京都出身。中学から米国に留学。現在、巨人軍英語通訳

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