COLUMN
第52回:選手が体調不良を訴えたら

プロ野球選手は超人です。驚くべき身体能力に恵まれた人たちが、血のにじむような努力をして就く職業です。そんな超人でも、ときには疲労や、不慣れな環境での生活で体調を崩すことがあります。今回のコラムでは、外国人選手が体調不良を訴えたときに、私たち通訳がすべきことについてお話します。
選手から連絡があると、まずは症状を確認して、体温を測るように促します。単なる感冒の場合が圧倒的に多いですが、まれに病気が隠れているか、精神的な要因があることも考えられるため、そのときのプレー内容や、本人の心理的な状態によって尋ね方を変えます。熱や嘔吐の有無、摂食や水分補給の状況、睡眠時間などを把握して、本人に代わってトレーナーに報告します。ここで注意しなければいけないのが、選手がコンディション不良を押して練習に参加したり、試合に出場したりする意思を示している場合です。
プロ野球選手は特別な人たちです。肉体的、精神的にタフな彼らは、簡単には痛みや違和感を訴えません。私たちに通訳にできることは、選手が示す些細な変化に気づいてあげることです。普段と比べて顔色が悪い、表情が曇っている、声の張りが欠けている、口数が少ないといったときに、本人の心情を察しつつ、「大丈夫?」と声をかけてあげることが重要です。
選手と通訳の信頼関係にもよりますが、「俺とお前だけの秘密だが…」と、実は具合が悪いことを打ち明けてくれる選手もいます。このようなとき私は、「首脳陣やトレーナーに報告するか?」と選手に尋ねます。その日の練習や試合に参加することを希望する選手は大抵、「ノー」と言います。ここで生まれる葛藤が、「選手の意思を尊重すること」と、「選手の身体を守るためにすべきこと」です。
選手は試合に出場して、その技術を一般に披露することで報酬を得ています。体調不良を理由に欠場することは、彼らのプロとしてのプライドが許しません。かといって、無理をして出場を続けると、症状が悪化する可能性があるばかりでなく、特に感染症の場合は、周りの選手に迷惑をかけることにもつながりかねません。
チームのスタッフとしては、関係者に選手の現状を報告すべきかもしれないが、選手個人の通訳としては、彼らの意思を尊重して沈黙を貫きたい。現場に出ると、そのようなジレンマに直面するかもしれません。
一覧へ戻る
前田悠也
東京都出身。中学から米国に留学。現在、巨人軍英語通訳