COLUMN
#55:メディア対応(前編)

このコラムを書いている今はちょうど春キャンプを過ごしています。キャンプは新しい外国人選手を中心にテレビや新聞など様々なメディア向けの取材が集中する時期でもあり、選手のスケジュールを把握し取材のタイミングや場所を調整することもまた通訳者の役割です。さらに、キャンプだけでなく、即戦力として来日する外国人選手はシーズンを通して勝っても負けても注目の的となることが多くメディア対応は避けては通れません。取材の流れやポイントを押さえておくことは選手に余計なストレスを抱えさせないためにとても重要です。
□メディア対応の種類
選手が質問を受けるタイミングや場所によっていくつか業界用語が存在します。
◯ぶらさがり
事前の申請なしに記者の方が選手を見つけたタイミングで声をかけて質問をするケースを差します。球場入りのタイミングで足を止められることもあれば、練習上がりや試合後に球場を出るときなどタイミングは様々です。
◯囲み
事前に球団広報部と記者陣の間で申し合わせをして、決まったタイミングで各社がまとまって質疑応答することを言います。登板が予告又は予想される先発投手の登板前日と当日登板後の質疑応答が代表的です。新外国人選手であれば初練習や初試合出場などの後に「囲み」を依頼されることも多いです。また、試合で大活躍をした際も「囲み」の対象となることがほとんどです。
◯取材
事前に質問内容やテーマが知らされた上で、場所と時間を設定して行われます。また、複数の記者の方に囲まれるぶらさがりや囲みとは違い、基本的に一対一(申請元の一社のみ)で実施されるため、選手の私生活や過去の経験など深掘りした質問をされる場合も多く、時間が長くなることがあるのも特徴です。
◯入団会見/支配下登録記者会見
入団会見は新しい外国人選手が来日又は他球団から新たに加入した際に開かれます。支配下登録会見は、育成契約で入団した選手が一軍でプレーが可能となる支配下契約に変更となったときに、決意や今後の目標を宣言する場として設定されることが慣例となっています。メディアの数がもっとも多く、通訳者もスーツなどフォーマルな立ち居振る舞いが求められるため、通訳の難易度としてはもっとも高い部類に入ります。
□「ぶらさがり」を予測して通訳者は行動
囲み/取材/会見は事前に場所を指示される一方で、ぶらさがりは場所もタイミングも決まっていません。なので、記者の方が外国人選手に質問しようとしたときに通訳者が一緒にいなかったために質問できなかったというケースもよくあります。ただ、言語の壁でなかなかファンの方に直接声が届かない外国人選手にとっては、メディア対応は自分を知ってもらうチャンスでもあります。球場入りや練習上がり、球場から隣接のグラウンドへの移動時など、記者の方々がどこにもいて、いつ質問のタイミングを窺っているのかを通訳者は予測し、できるだけ質問されそうなポイントで一緒に行動することが求められます。選手や記者の方と関係を築けている場合は通訳者から記者の方に「今日は何か質問されますか?」と事前に確認し、選手の気分や状態によっては「練習後の方が良さそうです」とか「今日は気分が乗っていないようで明日にしてもらえますか?」のように調整したりもします。
メディアと選手の「調整」はなかなか表には出ませんが、通訳者の重要な業務の一つです。当然選手も人間なので、気分や結果によっては質問に答えたくない日もありますし、そもそもマスコミ嫌いな性格の選手もいるのが実際です。しかし、取材拒否ばかりしていたら選手の性格がファンに伝わらないどころか、悪いイメージを与えかねません。
次回はメディアと選手の間に入って調整することについてもう少し詳しく書きたいと思います。
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加藤直樹
福島県出身。スポーツメーカー勤務後、独立行政法人国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊員として活動。その後、ジャイアンツアカデミーコーチを経て現在、巨人軍スペイン語通訳。