コラム

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加藤直樹

#64:打球捕 ー通訳者も貴重な戦力ー

プロ野球の試合前練習では、バッティングをする選手、各ポジションでノックを受けて守備練習をする選手、そして外野の後方ではキャッチボールやランニングをする投手が同じ空間で同時に試合に向けての調整を実施します。それぞれの選手が練習に集中できるように、チームスタッフが協力してサポートしますが、通訳者も例外ではなく、とりわけバッティング練習の打球から選手を守るために通訳者もグラブをはめて打球を追いかけることは日常業務の一つです。

◼️同じ時間/同じ場所で実施されるバッティングと投手練習

シーズン中はホームチームとビジターチームと、それぞれおよそ一時間から一時間半ほどグラウンドでの練習時間があてがわれます。例外がある場合もありますが、基本的には決められた時間内に打者と投手がそれぞれ同じグラウンド内で練習をします。野手は内野から外野まで広く使い、バッティングと守備練習を行う一方で、投手は打者がバッティングをするホームベースから一番遠いセンター守備位置の後方付近を使うことが多いです。余談ですが、メジャーリーグはメイン球場に隣接するサブグラウンドがあったり、そもそも投手練習の時間がずらされているため、同じ場所で練習することはあまりないようです。

◼️プロの打球は「ボール拾い」ではなく「打球捕」

河川敷の少年野球などのボール拾いと違い、プロのバッターはボールをどんどん遠くまで弾き返してくるので、投手が練習している場所までダイレクトに打球が次から次へと飛んできます。コロコロ転がってくるボールを集めるだけならただの「ボール拾い」ですが、プロ野球のバッティング練習はそんな穏やかなものではなく、ボールを捕る側が気を抜くと打球が直撃しケガをしてしまうこともあるほど。そのため現場では、バッティング練習中に守備練習を兼ねて打球を捕球するという意味の「打球捕(だきゅうほ)」と表現することが一般的です。ちなみにスペイン語では、同じく打球捕を意味する英語「shag」から派生した「chaguear(チャゲアール)」がそれに当たります。特に、ホームゲームのときは二箇所でバッティングが実施され同時に二つの打球の行方に対して注意を払う必要があるため、より集中力が求められます。

◼️打球捕では通訳者も貴重な戦力

バッティング練習の間はトレーナーさんをはじめ球団スタッフが手分けをして打球捕に当たります。打球捕はたんにボールを集めるだけでなく、ランニングやキャッチボールで試合に向けて練習する投手たちを守る目的があり、通訳者もグラブを片手に右に左に打球を追いかけます。日によっては、10名ほど投手が練習しているのに対し、打球捕ができるスタッフが2、3人しかいないときもあるため、通訳者も貴重な戦力です。このとき、上述したようにプロの打球は勢いが違うので、気を抜いていたり、目測を誤ったりすると打球が捕れず自分自身がケガをしてしまう、或いは選手に打球が当たってしまうこともあるので、しっかり打球の行方に注意を払い集中していることが大切です。また、自分が届きそうにない打球に関しては、付近の選手やスタッフに向けて「上!上!」や「ライナー!ライナー!」と大きな声で知らせることも事故を防ぐために欠かせません。

実際に、過去には翌日に先発を備えてランニングをしていた選手がおり、打球がその選手の頭に直撃したということがありました。そのとき私は打球から遠くの位置におり、「ボール!ボール!」と叫んだものの声は届かず、まさかよりによって頭に当たるとは思いませんでした。直撃の瞬間はヒヤッとしましたが、幸いなことにその選手はすぐに立ち上がり、練習を中断し様子は見たものの、その後大事には至りませんでした。まさに打球捕の重要性を認識した瞬間でもありました。

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他の通訳業とは違い、プロ野球通訳者がチームスタッフの一員であることの象徴的な業務の一つが打球捕と言えるかもしれません。夏場の屋外球場で一時間半ほど打球を追いかけると、汗も相当かきますし体力も消耗しますが、担当選手のみならず日本人選手からも「(打球を)知らせてくれてありがとうございました!危うく当たるところでした!」と感謝されることもあり、普段の外国人担当通訳としてのやりがいとはまた異なったかたちで、チームの一員としての充実感を与えてくれる業務の一つだと感じています。

加藤直樹

加藤直樹

福島県出身。スポーツメーカー勤務後、独立行政法人国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊員として活動。その後、ジャイアンツアカデミーコーチを経て現在、巨人軍スペイン語通訳。

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