COLUMN
#63:偏食?それとも偏見?

先日、担当の外国人選手とチームの日本人スタッフと一緒にお寿司屋さんに行くことがありました。寿司は食べられると話していた選手でしたが目の前で板前さんが新鮮なお魚のネタを握ってくれると、「生では食べられない」と言い、特別に一つ一つのネタを炙ってもらい提供してもらいました。日本人スタッフもお店の方も最初は苦笑い。通訳者の自分も、寿司を食べると言ってもおそらく大半食べられないだろうなと心のなかで予想していたため、なんとか選手は美味しく食べられて楽しい会食の時間となったのでよかったのですが、選手の出身国の食文化を説明したり、言語の通訳以外にも通訳者の役割を実感した時間でもありました。
■生肉/生魚は食べない
中南米出身の選手は基本的に生ものは食べないことが多く、お肉や魚はしっかり火を通したものでないと食べません。好きな日本食を聞かれて「スシ」と答える選手も多いですが、この場合はいわゆるカリフォルニアロールのようなサーモンや天ぷらが中に入っていたり乗せてあるものを指すことが多く、日本人が食べるような生魚は食べないことがほとんど。日本人選手に誘われて焼肉に行くことは多いですが、焼肉といえば私たちにとってはお馴染みのユッケなど持ってのほかで、見た瞬間に「NO!NO!」と反応するのは中南米出身選手では見慣れたリアクションです。試合後のホテルの食事でお肉を食べるときも、「ベリーベリーウェルダン」と、火をしっかり通してもらえるように必ず念を押します。
先輩スタッフから聞いた話しですが過去にはこんなことがあったそうです。カリブ海出身の外国人選手が日本人選手の間でも評判の良いステーキのお肉を注文する際に、同席していた日本人選手が良かれと思ってオススメのミディアムレアで頼んであげました。すると、運ばれてきたお肉が “生焼け” だったため外国人選手は「こんなのは食べられない!」と機嫌を損ねてしまったのです。日本人選手たちは予想外の反応にびっくりして、「変なやつ」、「扱いづらい」と印象を強めてしまったそうです。
■偏食?それとも偏見?
じつは、生肉生魚に限らず日本で生活する外国人選手にとって食事の好き嫌いはよくあることで、球場やホテルで用意された食事が、一見日本人にとっては種類豊富で美味しそうに見えたとしても、外国人選手が「食べられる(食べたい)ものがない」と言って困ることはよくあったりします。日本人の感覚だと偏食に映るのかもしれませんが、外国人からしてみればそれは偏見。見方によっては好き嫌いの多い「わがまま」ととらえられてしまい、外国人選手の印象が悪くなることも少なくありません。ごく日常の些細なことですが、こういう時に通訳者がひと言フォローできるかどうかで外国人選手のイメージの受け取られ方も変わります。
焼き肉の例で言えば、以前日本人選手が「馬刺しとかも食べられないんですか?鳥刺しも?あんなに美味しいのにもったいない!」と生肉の美味しさがわからない外国人選手の感覚を嘆いていたときに、「テレビ番組でどこかの国では生きた幼虫を美味しそうに食べるのを見たことあると思うけど、食べたいと思う?外国人選手にとって生肉はたぶんそういう感覚なんだよ。」と通訳者が言うと、「ああ、確かに食べたくはないですね(苦笑)」とその日本人選手も納得してくれました。おそらくこのとき、 “偏食” はレッテルで 実際は “偏見” だったと気づいてくれたのだと思います。
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今回の食事のエピソードのように、日本人にとっては外国人選手の行動が一見風変わりに見える一方で、彼らにとっては当たり前のことということは本当によくあります。私自身もそうですが、おそらく多くの人は無意識に自分の物差しだけで考えてしまい、自分の常識と違うものに対して偏見の目を抱き、ややもすれば「悪」と見なしてしまいがちです。厄介なのはこれが無意識で行われてしまうことで、ともすれば意図せぬところで外国人選手の印象が損なわれていることは少なくないのかもしれません。そう考えると偏見からくる誤解を未然に防ぐことも通訳者の重要な役割の一つだと、冒頭の経験を通じて改めて考えさせられました。
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加藤直樹
福島県出身。スポーツメーカー勤務後、独立行政法人国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊員として活動。その後、ジャイアンツアカデミーコーチを経て現在、巨人軍スペイン語通訳。