COLUMN
第35回:二軍降格の伝え方(前編)

日本人選手、外国人選手を問わず、一軍に在籍する選手がファーム降格を告げられるのは辛いものです。成績不振や故障、外国人選手枠の関係など、降格の理由はさまざまですが、その時の選手の感情に配慮しながら降格になった旨を通訳する必要があります。ほとんどの選手が淡々と受け止めますが、監督の指示が絶対であることを理解しつつも再考を求める選手や、過去には頑なに降格を拒否する選手もいました。しかしどんな反応を示そうとも、心の底から納得して降格を受け入れる選手は少ないはずです。感情的になりがちな場面での通訳は、私たちも最新の注意を払って行いますが、そもそも選手が感情的になる背景には、日本人と外国人選手の二軍、あるいはマイナー降格に対するイメージの大きな違いがあります。
日本では、ひとたび球団と支配下選手契約を締結すると、一軍での在籍日数に関わらず、年俸が減少することはありません。たとえ一軍での活躍を期待されて高額の契約を結んだ選手がなんらかの理由で長期間二軍に在籍しても、その年の年俸が変わることはないのです。そして一度登録を抹消されても、最短10日間を経て、再び出場選手登録を受けることができます。しかし海外、とりわけメジャーリーグでは、メジャー契約を結んでいるか否かによって、年俸が大きく変動します。また、「サービスタイム」と呼ばれるメジャーのアクティブ・ロースターに登録されている日数により、年俸調停権やトレード拒否権、マイナー降格拒否権などの各種権利を取得できるまでの時間や、引退後にメジャーリーグ機構から支給される年金の額までも変わってくるため、多くの外国人選手はファーム降格を深刻に受け止めます。
日本で二軍行きを命じられる外国人選手のほとんどは、一時的な不振や調整が理由でそれを言い渡されます。野手の場合、スタメンに名を連ねていた選手がいきなり二軍降格を言い渡されるケースは稀です。徐々に調子を落とし、ラインナップを外れ、ベンチを温めることの多くなった選手が、出場機会を確保するために二軍での調整を打診されることがあります。投手の場合は、打ち込まれる登板が続いた場合や、登板間隔の空いてしまった際に実戦感覚を維持する目的で二軍での調整を指示されることもあります。このように日本では、短期間での一軍復帰を前提としてファーム降格を告げられることが圧倒的に多いのです。ところがメジャーリーグの場合、故障やメジャー契約のまま40人枠に留まる場合を除き、マイナー降格を通告されると、そのチームとっては不要な戦力と見なされ、また一からメジャー昇格を勝ち取らなければなりません。
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前田祐也
東京都出身。中学から米国に留学。現在、巨人軍英語通訳